まずはステレオから
ステレオフォニック再生は、典型的には、聴取者の水平方向前方左右30度の位置に一対のスピーカーを配して2チャンネルの音声を再生する。それに対し、前方正面の1つのスピーカーから1チャンネルの音声を再生する方式をモノフォニックと呼ぶ。なお、一般にモノラルと混同されるが、これは後述の通り別の再生方式である。また、1チャンネルの音声をステレオフォニック用の2つのスピーカーから同時に再生して聴取する方式はダイオティックと呼ばれ、モノフォニックとは厳密には区別される。 ステレオフォニック再生はモノフォニック再生に比較して、音像定位や音場感が加わり、再生音の臨場感が増す効果がある。2つのスピーカと聴取者頭部が一辺3メートルの正三角形に位置する配置が最も望ましいとされている。この時の聴取者の位置のことをリスニング・ポイントまたはスイート・スポットと呼ぶ。 録音については、左右1対のマイクロフォンで集音してそのまま2チャンネルの音声とする方式と、個々の楽器や歌手に個別のマイクをあてがい、オーディオミキサーで2チャンネルの音声にまとめる方式とがある。現在の殆どのコンパクトディスクはステレオフォニック再生用として収録されているが、前者の方式で録音されたものはクラシック音楽などの一部であり、大半は後者の方式で録音されている。
ステレオフォニック再生で臨場感が増す理由として、人間が元々左右の耳に入る音の位相差および音量差などを利用して音源の方向を把握している点が挙げられる。これを2つのマイクロフォンでシミュレーションする方式として2チャンネル音声伝送は考案されたが、当初はステレオフォニックではなく、バイノーラルと呼ばれる方式であった。これは、2つのマイクロフォンを両耳の位置に備えた擬似頭部を用いて集音した2チャンネル音声を左右の耳にあてがった1対のイヤーフォンで聴取するもので、この再生方式をバイノーラルと呼ぶ。因みに、左右どちらか一方の耳で1つのイヤーフォンで聴取する再生方式をモノラル(モノーラル)と呼ぶ。 バイノーラル再生の効果はパリ博覧会にて複数の電話を用いることで偶然に発見されたとされているが、真偽は不明である。現在に至るまで、バイノーラル録音はドイツで研究が盛んであり、HATS(ヘッド・アンド・トルソー・シミュレータ : ダミーヘッドに肩部や胴体も加えたシステム)も性能を高め、サラウンド以上の臨場感が得られるケースも出てきている。
音源が普通のステレオ録音の場合、通常のステレオ装置ではステレオフォニック再生、ヘッドフォンステレオではバイフォニック再生を行っていることになる。モノ録音のCDを普通のステレオで再生すると、厳密にはモノフォニックにはならない(わずかながら左右のチャンネルの特性が異なること、スピーカーの個体差および設置条件により再生が全く同じ音を発しないから)。
また、クラシック音楽など自然な音響再生を好む聴衆向けに、原理通り2個のマイクロフォン(ペアマイクまたはステレオマイクを用いる)を用いて収録する場合もわずかながら存在する(ワンポイントステレオ録音などと呼ばれる)が、殆どの商業録音ではマルチマイク録音が行われる。これは各楽器、パート別に多数のマイクロフォンを配置し、マルチトラックレコーダを用いて多チャンネル録音を行い、後で各チャンネルの音楽的バランスをとりつつ2チャンネル(あるいは伝送媒体の規定するチャンネル数)にトラックダウンする方法である。音像の位置はパンポットを用いた左右の音量差のみで決めることが普通である。その点はワンポイントステレオマイク(→マイクロフォン#その他の分類一本で記録した音も同じであるが、実際に音場を形成したわけではないので、ある意味擬似的なステレオフォニックである。